これまでの人生、「穴があったら入りたい」と思ったことは数知れず。
若い頃は「穴があったら入れたい」と思ったことも数知れず(?)
でも、「穴に入れてもらいたい」と思ったことは一度もないし、できれば経験せずに天寿を全うしたいと思っていた。
しかし、40台の折り返しを過ぎ、気がつけばアラフォーじゃなくて、アラフィフのステージに登っていることに気付く。そろそろ、いろいろな身体の変化が起きてくる年齢である。
いつの間にか、眼鏡を下にずらして、上目づかいにスマホを見るようになった。本を読むときは眼鏡を外して読むようにもなった。
若い頃は黒髪の中に見つけた一本の白髪を抜く事もあったが、今では抜いてるときりがない&生えてこないかもしれない不安から抜かなくなった。
それくらいの変化はまだかわいらしい。笑って受け入れることができる。
しかし、この歳になるとふと考える「いつ、人生のゴールが見えてくるか分からない」と。 事故は年齢に関係なくやって来る。しかし、病気は歳を取るにつれてやって来る確率が高くなるのは明らかだ。 病気が見つかり、あれよあれよという間に人生に幕を下ろさなくてはならないなんてことも他人事じゃないのである。
そこで、40台を過ぎたあたりから、会社で年1回受ける健康診断の他に、病院へ行って検査をしてもらうようになった。 といっても、血液検査とエコー検査のみで胃カメラなどはやってこなかった。
しかし、ちょうど節目になる年齢ということで妻がスペシャルな検査を予約してくれた。 胃カメラと大腸カメラの「上からも下からも覗いちゃいますセット」である。
今の俺は去年の俺とはひと味違う。そう、夏休み明けに急に色っぽくなった女子のように、経験は人を変えるのである。
そんなわけで、これから自分のあと通る人達のために体験記録を残そうと思う。
1週間前
病院にて事前の問診があった。
検査を受けたいと思った理由とか、気になること等を聞かれたので、年齢的にやっといた方が良いかなとか、親が癌で亡くなっているので念のためとかそんな事を伝える程度の内容を医師に伝えた。
その後、看護師さんから検査に向けての注意事項を説明してもらった。お腹の中をキレイにするため、数日前から絶食とか、食事制限があるのかと思っていたが、前日から気をつければ良いということで拍子抜けした。なんだ、楽勝じゃないか。
前日
事前にもらったパンフに食べて良いもの、駄目なものが載っていたので、それに従って食事をとった。
食べて良いのは白米、パン、うどん、あとは忘れた。駄目なのは海藻とか、ナッツといった内臓の壁にくっつきそうなもの。 麦茶は良いけど、緑茶は駄目とか。
自分は朝は食パン、昼はおにぎり、よるはうどんを食べた。絶食じゃないのでなんてことはない。
この時点で、翌日が楽しみで仕方がなかった。下剤を飲んでお腹の中を空っぽにするのも、下からカメラを入れるのも初めての体験。これを楽しみにせずにいられようか。というわけで、三十数年ぶりに遠足前のウキウキした気分を味わった。
当日(説明編)
病院へ行くと、問診票を軽くチェックされた。 「鎮静剤を使うのを希望しますか?」という項目があり、どれくらいどうなるのか分からなかったので聞いてみると、「5分ほどうとうとする感じで、帰りに車運転しても大丈夫なもの」ということだった。「うとうとしちゃうと、何が起きたのかはっきり記憶できないじゃないか」と思ったが、日和って「じゃぁ、お願いします」
それから、個室に案内してもらった。4畳くらいのスペースにリクライニングチェアやテレビが置いてあり、なんともゆったりとした空間。そしてもちろん、専用のトイレ付き。「これは読書が捗る」と感じた。長期戦を覚悟して、Kindle端末を持ってきてたのでムフフである。
そして看護師さんがもって来てくれたのは、2リットルの下剤ジュースとコップ。
どん!
飲み方はこうだ。
10分間でコップ1杯分を目安にして、1リットルを1時間で飲む。 飲みながら、コップ1杯単位に飲み始めの時刻と出たウ○コの状態を書く。書くといっても、固形、ドロドロ、まだカスあり、透明の4段階のどれに当てはまるか○をつける。
こんなやつに書きながら進めるので間違えることもない。
1リットル飲んだら、次は水を0.5リットル飲む。同じように30分で飲む感じ。
ここまで来て、透明になれば検査できる状態ということで、下剤は終了。
透明になってなければ、さらに下剤をコップ2杯飲んで、水を1杯飲む感じ。
「そして、ウ○コが透明な感じになったら読んで下さいね。チェックしますので」という言葉を最後に看護師さんは部屋を出ていき、よーいどん!
当日(下準備編)
恐る恐る下剤の入ったコップを口にすると・・・「あ、以外とイケるかも」
そう、前日の晩から絶飲食だったので、空腹や喉の渇きもあいまって美味しくかんじるのである。しかし、それもコップ半分くらいまで。
決してまずいわけではないが、味が個人的に好きじゃない。例えるなら、「少しとろみのついた梅ジュース」という感じ。酸っぱいのだ
それでも本を読みながらちびちびと飲み続けること15分。ついに第一波がやって来る。
そこからは太平洋の大波のごとく押し寄せる波に翻弄されつつ、しかし下剤は飲み続ける必要もあり、飲むのを優先するか、出すのを優先するか一瞬悩んだりもしたが、もちろん優先すべきは出す方だ。
それからしばらくは落ち着いて本を読むこともままならなかったが、最初の1リットルを飲み干す1時間が経過する頃になると大分落ち着いてくる。
そして、次に飲みはじめる0.5リットルの水。この水が美味い!ただの水だと思うけど、梅味の下剤にうんざりしてたので、ものすごく美味しく感じる。 がぶがぶ飲みたい衝動を抑えながら、淡々と水を飲むこと30分、 その頃にはお腹の中には下剤と水しかない状態なのでだいぶ良い感じの色になってくる。
そして、看護師さんを呼んでみてもらうのである。この感じ、子どもが「みてみてー、ぼくひとりでうんこできたよー」というシチュエーションに似ていると言えないこともない。「大分良い感じですね~」って褒めて(?)もらえるし。
とはいえ、一発OKにはならず「もうちょっとですね」と言われること1,2回。やっとOKがでる。
それから自分は1時間ほど待機した。待機している間もお腹に残っているものが出てくるので、それくらいの時間を空けるのは普通の流れなんだと思う。
この時間はわりとゆったり読書できた。 そうこうしていると、看護師さんがお尻の部分だけペロッと開くパンツを持ってやって来る。
それに履き替えて、鎮静剤を落とす点滴を刺されたら、あとはまな板の上に乗るのみとなる。
当日(本番)
まな板の上で緊張する自分。
最初はお尻の方から、それが終ったら口からの検査になること。胃カメラの前に喉用の麻酔をシュってするので飲むようにと説明を受ける。
そしていよいよ、横向きになるよう促され、胃腸の動きを抑える注射を打たれる。
そして、医師が登場。この時点でやっと鎮静剤が落とされ始めるわけだが、薬が効くより先にカメラを入れてもらえる。
「はうっ」と声はでなかったが、始めてウ○コが逆流するときの感覚を味わった。恐る恐る目を開けると、目の前にモニターがあり自分の中がどうなっているのか丸見えになっている。「これは見ておかないと!」と思った5秒後、目を閉じていた。
そして気がつくと、検査室からベッドごと出て待合用の部屋で寝かされていた。
「終りましたよー」と声を掛けてもらい、起き上がる。言われたとおり、薬の影響はあまりないようでちゃんと歩けるが、喉はしびれていた。そう、終ったのだ。寝ている間に。。
当日(結果)
しばらくして、検査結果について説明を受ける。とりあえずどこも異常なしでホッとした。
ただ、昔ピロリ菌がいたこともあり、1年に1回は胃カメラで検査した方がいいと言われた。大腸は5年に1回くらい。
費用は保険がきいて12,000円弱だった。これだけの検査(エコー、大腸カメラ、胃カメラ)がこの金額で受けれるなら安いもんだと思う。
まだ引かない喉のしびれを感じたまま、会計を後にした。
病院を出ると1月の冷たい風が頬を掠める。
大人の階段を一つ登った俺の目に、いつもの町の風景が違った色に見えた。